徹底したMI治療で、メインテナンスに通いたくなる歯科医院に

コンセプトは、俺の嫌いなことはやらない

「俺の嫌いなことはやらない」――。
歯科医院のコンセプトについてたずねると、豊山洋輔院長と豊山とえ子歯科衛生士(以下DH)の二人から同じ言葉が返ってきた。
自分の嫌いなことはやらないとは、わがままな歯科医院である。しかも、「私どもの考えをご理解いただき、ご自身もお口の健康のために全力を尽くしてくださる方以外、来ていただかなくて結構です。『ゲスト(同院では患者のことを「ゲスト」と呼ぶ)のわがままを何でも聞きます』という歯科医院ではございません」と、豊山院長は言い切る。
しかし、じっくりと話を聞くにつれ、「俺の嫌いなこと」は、大抵、他の人にとっても嫌いなことであり、つまりは、「ゲストに不快感を与えるような治療をいかに少なくするか」を追求する姿が見えてきた。

歯科医院と聞いて、どんなことを連想するだろうか。歯を削るときのキーンという鋭い音、ガリガリッガリガリッという音、痛み、振動、独特な臭い…。形容詞を挙げるとしたら、「恐い」「痛い」が真っ先にくるだろう。いってみれば、「嫌なこと」が凝縮されている場所、かもしれない。
医療関連のマーケティングを行うメディカル・コミュニケーションズ社によるアンケート調査によると、通院した歯科医院に対して「満足」と回答したのは800人中3割程度。期待度と満足度のギャップが特に大きかったのが、「治療費の説明、明確さ」「医師の適切な指導力、アドバイス力」「痛くない治療技術」といった項目だった。
「もし、今かかっている歯科医院で8割方満足しているのであれば、ぜひ、そのまま通ってください。当院のホームページをお読みいただく必要もないかもしれません」と豊山院長。
しかし現実は、8割方満足しているという人は稀。不満を感じつつも仕方なく通院している人、痛みが限界を超えるまで歯科医院を避ける人は多い。
だからこそ、二人は「俺の嫌いなことはやらない」をコンセプトに掲げる。なぜなら、丈夫で美しい歯を保つには、定期的に歯科医院に足を運び、プロによるメインテナンスを受けることが欠かせないからだ。
聖母歯科医院では1983年の開業当初から、時間をかけたメインテナンスを自由診療で行ってきた。メインテナンスに足を運んでもらうためには、その重要性を伝えるとともに、歯科医院自体が、「痛みが出てから渋々行く場所」「できることなら行きたくない場所」から変わらなければならない。月に一度、数ヶ月に一度美容院に髪を切りに行くような感覚で足を運んでもらうために、聖母歯科医院が大切にするのが、「MI」という考え方だ。

日本、海外のデンタルショーで新しい情報を収集

MIとは、「Minimal Intervention(ミニマル・インターベンション)」の略。削る、抜くといった歯に対する外科的な治療を最小限にとどめて、できるだけもとの歯を残しながら、最大限に改善するという治療の仕方だ。
虫歯が見つかったら、その部分をごっそり削って代わりのものを詰める、あるいは神経ごと取り除いて詰めるといった治療が日本ではまだまだ多いなか、聖母歯科医院ではしつこいほどに、なるべく削らない、なるべく抜かない治療を模索する。その代わり、治療にかかる時間は長くなり、保険適用外の治療法が多いため費用は高くなる。その価値を理解し、治療に対する労力をいとわない人が、聖母歯科医院の求めるゲストというわけだ。
当然、聖母歯科医院では、MIという考え方を実現するための労力は惜しまない。たとえば、情報収集。日本のデンタルショーはもちろんのこと、2年に1度開かれる、歯科業界で世界最大規模の展示会「国際デンタルショー」にも毎回参加し、新しい治療機器や材料を直接見聞きし、たとえ日本ではまだ普及していないものであっても、エビデンス(医学的な根拠)のしっかりした、いいものが見つかれば積極的に導入する。
「今使っているものよりもいいものが出てきたら、すぐに変えます。そういう意味では、日本一こだわりのない歯科医院。現状に固執しては、一歩も前に進めなくなります」(豊山院長)

新しい治療法をメーカーと探求

新しい技術や設備を導入しながら、より良い治療法を自ら探求する姿勢は、開業当初から変わらない。もっといえば、豊山院長は歯科医になった当初から、疑問に感じたことは自ら調べるということを繰り返してきた。
「最近気づいたのですが、多くの歯科医は国家試験が終わると、まったくといってもいいほど勉強しなくなります。もっといい治し方はないのかと、情報を収集して自ら探求する人はごくわずか。私の場合、勉強という意識ではなく、気になったことを調べていたら、次第にいくつかのメーカーの開発にかかわるようになり、否が応でも勉強せざるを得なくなったんです」(豊山院長)
聖母歯科医院には、毎週1社は、歯科関連のメーカー関係者が訪れる。技術的なアドバイザーとして関与しているメーカーも複数ある。経験のなかで「こうやったら初期の虫歯は治るかもしれない」といったアイディアが浮かべば、安全性を担保するために、メーカーと直接、ディスカッションし、テストを重ねる。そうした試行錯誤から生み出され、商品化されたものも複数ある。

院内環境から治療法まで
ゲストが求めるものをとことん追求

2010年1月、聖母歯科医院は院内の改装を行った。もともと落ち着いた雰囲気だった待ち合いスペースは、絨毯を張り替えて、さらに落ち着いた、温かい空間になった。一方で、治療ユニット内にはポップな色を使い、待ち合いスペースとのメリハリを利かせ、ガラリと印象を変えた。
そして臨床面では、歯周病を2回の治療で治すという「ツーデイペリオ」、アメリカ製の検査システムを導入して行う口腔がんのスクリーニングなど、新しい治療や検査の導入を今後、予定している。
「当院は、1ヵ月来なかったら、おそらく何かが変わっていますよ。常に新しいことを考えているので」と、豊山とえ子DH。
俺の嫌いなことはやらない――。ただし、好きなこと、つまりは、ゲストが求めることをとことん追求する。そんな歯科医院だ。

2010年3月30日掲載

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