問診票は使わない
治療の第一歩は、ゲストの「なぜ」に応えること
歯科医院に行って、まず行うことは何か。多くの場合、問診票を書くことではないだろうか。そして、問診票によくある質問の一つが、「保険診療にしますか、自由診療にしますか」という選択。また、「痛いところ、気になるところだけ治療したい」「悪いところは全部治療したい」といった治療範囲を問う設問もよく見かける。
多くの人は、「保険診療」、「痛いところだけ」に○をつけるだろう。なぜなら、問診票に記入するのは、歯科医師や歯科衛生士から情報提供を受ける前のタイミングであって、どんな治療法があるのか、そもそも自分の歯がどのような状態にあるのかさえ、正確に把握していない状態だからだ。自分の歯が抱えているリスクも、治療によって得られるメリットもわからない状況であれば、必要最小限の治療で、なおかつ安く済ませたいと考えるのはごく当然のことだ。
聖母歯科医院では、問診票は使わない。治療の第一歩として行うのは、ゲストの話を聞くこと。どういう症状に困っているのか、今後、どうなりたいのか、そしてどういう治療を受けたいのか。「悪くなりたい」と考えている人は当然一人もいない。しかし、来院するゲストの中には、他の歯科医院で治療を受けたものの、改善したとは決していいがたい状態の人や、治療を終えたはずの箇所が悪くなっている人もいるという。ゲストが抱えている「なぜ?」に、歯科医療のプロとして応えるのが初診時の重要なミッションだ。
「『なぜ、こうなったのか』ということを理解していただかなければ、前向きに治療に応じていただくことはできません」と、豊山とえ子DHは言う。
初診から3回目までは情報収集と情報提供
ゲストの「なぜ?」を解消できたら、次は了承を得た上で、徹底的な情報収集、つまり、細菌検査(デントカルト)、歯周病リスク(バナペリオ、BML)、唾液の質、X線撮影などの検査を行う。歯周病リスクを調べるペリオチャート(OHIS・・・参考サイト)、口の中の虫歯菌の数(カリオグラム・・・参考サイト)や唾液の量を調べる唾液検査などは保険の適用外になるため、受けるかどうかはゲストの意思によるものの、ほとんどのゲストは受けることを選ぶという。というのは、正確な情報がなければ、適切な治療スケジュールを立てることはできないことをゲストに話し、理解を得ているからだ。
「歯の状態は検査をしなければわかりません。歯質が弱いのか、強いのか、あるいは、虫歯や歯周病のリスクは高いのか、低いのか。弱いなら弱いなりに、リスクが高いなら高いなりに対策を講じることができるのです」(豊山とえ子DH)
また、口腔内写真の撮影枚数の多さも聖母歯科医院の特徴の一つだ。噛み合わせた状態の正面・左右、上下の歯の各全体、前歯・右側・左側の各裏側など、一度に15枚前後のカットを撮る。しかも、わかりやすい写真を撮るには、口の中にミラーを入れて映したり、舌を器具で押さえながら撮ったりと、痛みとまではいかないものの、ゲストに若干の苦痛を強いることとなる。それでも写真を重視するのは、「百聞は一見にしかずで、画像の持つ情報伝達能力を実感しているから」(豊山院長)。
「いくら質の高い治療を行っても、治療内容が伝わっていなければゲストの満足は得られません。口腔内は自分自身では見えない部分なので、画像が必要。できるだけ多くの情報をお見せすることで、現状、治療経過の認識がより高まるのです」(豊山院長)
情報収集を終えて、検査結果が出揃ったら、検査結果を報告するとともに、考え得る治療方法をすべて提示する。このとき、1本の歯を治すにも、保険内での治療方法も含めて、場合によっては10通り、20通りの治療プランが考えられるという。そして、それぞれの選択肢について、かかる費用、治療回数・期間、さらにメリット、デメリットに関する情報を提供する。ここでいうメリット、デメリットとは一般的なものではなく、一人ひとりの歯の状態や生活スタイルまで加味した、その人にとってのメリット、デメリットだ。
ここまで徹底的な情報収集、情報提供を行うのは、あくまでもゲスト中心のチーム医療を大切にするから。医療もサービス業である以上、治療の最終目標はゲストが満足を得るということだ。そして、ゲストの満足度には、自分の意思で選んだ治療かどうかが大きく左右する。だからこそ、治療プランを決定するまでのコミュニケーションを大切にする。聖母歯科医院では、「説明」という言葉を使わない。一方的に伝えるのではなく、プロとして情報を提供し、ゲストと共有する。
初診から2回目、3回目までは、行う処置は細菌コントロール程度で、他は、ゲストに納得のいく治療法を選んでもらうための話し合いで終わる。そのため、「早く治してほしいという要望に応えるのは難しい」と、豊山院長は話す。
歯科医師並みの知識量を持った歯科衛生士が
初診からメインテナンスまで対応
聖母歯科医院では、初診からメインテナンスまで一貫して対応するのは、歯科衛生士だ。治療結果や治療方法に関する情報提供を行うのも歯科衛生士の役割。また、治療プランを考える際にも、歯科衛生士が大きな役割を果たす。歯学部で専門教育を受けた歯科医師よりも、よりゲストに近い視点を持つのが歯科衛生士だからだ。ただし、その分、「歯科衛生士に求めるレベルは理不尽に高い」と豊山院長は言う。
治療プランを考える際は、歯科医師と歯科衛生士がそれぞれの専門性を持ち寄ってディスカッションを行い、現実的に考えられる方法をすべてリストアップするため、歯科衛生士も歯科医師並みの知識量を持っていなければいかない。また、リストアップしたプランをゲストにわかりやすく伝えるには、コミュニケーションスキルも求められる。
現在、聖母歯科医院で働いている歯科衛生士は、豊山とえ子DHのほか、3人。このうちの一人は、物心つく前から通っていた、元ゲストだ。歯科衛生士になり、他の歯科医院で研修を行ったものの、他院の滅菌レベルや治療レベル、治療方針を体験し、「他の医院ではなく、絶対にここがいい」と聖母歯科医院を選んだ。歯科衛生士になって、まだ1年目の彼女だが、見学に来た他の医療機関の歯科衛生士は、経験5年、10年の人であっても、圧倒的なレベルの差に驚いて帰るという。
「歯科衛生士の接客、および技術レベルは、日本で一番だと自負しています。『自分自身がサービスを受けたときに嫌だと感じることをどれだけ少なくできるか』が、ポイント。このことに対して敏感かどうかで提供するサービスの質が変わります。おごった言い方をすると、他の歯科医院で私どもの歯科衛生士が学ぶことは少ないのではないでしょうか」(豊山院長)
2010年3月30日掲載